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東京高等裁判所 昭和44年(ラ)730号 決定 1970年4月01日

理由

本件抗告の趣旨は、「原決定を取消す。」との裁判を求めるというにあり、その理由の要旨は、

「原裁判所は、本件強制競売の目的たる不動産の最低競売価額金六九八万八、五四〇円をもつては差押債権者(抗告人)に先立つ不動産上のすべての負担および手続の費用を弁済して剰余のある見込がないとして本件競売手続を取消した。

しかし、本件において、差押債権者たる抗告人の債権に先立つ負担は右不動産に設定されている根抵当権の被担保債権であるところ、順位第一番ないし第三番の根抵当権者たる株式会社静清信用金庫の有する被担保債権の合計額は金一九五万円であり、順位第四番の根抵当権者たる株式会社太道相互銀行の有する被担保債権は金八八万円であつて、他に差押債権者の債権に先立つ負担は存在しないから、右負担および費用を弁済しても剰余は存するのである。

よつて剰余の見込なしとして強制競売手続を取消した原決定は不当であるからこれが取消を求める。」というにある。

よつて按ずるに、本件記録によれば、

「(一)原裁判所は、本件強制競売の目的たる不動産の最低競売価額を金六九八万八、五四〇円と定めた上、民事訴訟法第六五六条第一項に基き、昭和四四年八月一五日付通知書をもつて、差押債権者たる抗告人に対し、「最低競売価額金六九八万八、五四〇円をもつては、差押債権者に先立つ不動産上の負担および費用を弁済して剰余ある見込がない。」旨を通知したが、決定期間内に、差押債権者(抗告人)から同条第二項所定の申出がなかつたので、同年九月八日付決定をもつて、強制競売手続を取消すとともに抗告人の本件強制競売の申立を却下したこと、

(二) 原裁判所が不動産強制競売手続を取消した昭和四四年九月八日当時における、抗告人の差押債権に先立つ競売目的不動産上の負担と目すべきものとしては、

(イ)  債権者静清信用金庫、債務者株式会社静岡教材社、原因昭和三六年一〇月二〇日設定契約に基く根抵当権の昭和三七年三月七日追加担保契約、債権元本極度額金一八〇万円なる根抵当権

(ロ)  債権者および債務者(イ)に同じ、原因昭和三八年九月三〇日根抵当権設定契約、債権元本極度額金一〇〇万円なる根抵当権

(ハ)  債権者および債務者(イ)に同じ、原因昭和三九年一〇月七日根抵当権設定契約、債権元本極度額金一〇〇万円なる根抵当権

(ニ)  債権者株式会社太道相互銀行、債務者株式会社静岡教材社、原因昭和四〇年一二月一五日根抵当権設定契約、債権元本極度額金五〇〇万円なる根抵当権

の右四個の根抵当権によつて担保される被担保債権であるところ、原裁判所は右各根抵当権の債権元本極度額の合計である金八八〇万円をもつて右根抵当権者らの有する現実の被担保債権の額としても、すでにこれと競売目的不動産の最低競売価額を対比すると、右最低競売価額をもつては無剰余となるものと判断して競売手続を取消したこと」

が認められる。

これに対し、抗告人は、前記根抵当権者らのうち、株式会社静清信用金庫が現実に有する前記根抵当権の被担保債権の合計額は金一九五万円であり、株式会社太道相互銀行が現実に有する被担保債権の額は金八八万円であると主張し、その旨記載された抗告人作成にかかる上申書を提出しているが、右上申書のみによつては右被担保債権額が抗告人主張のとおりであるとの疎明が十分であるとはいいがたく、他に抗告人の右主張を認めるに足る資料はない。

ちなみに、根抵当権の債権極度額を被担保債権の額とみなした原裁判所の措置の当否につき考えてみるに、そもそも、根抵当権の債権元本極度額は、当該根抵当権によつて担保される被担保債権の最高限度を示すものであつて、右極度額と根抵当権者が債務者に対し現実に有する被担保債権の額とは必らずしも一致しないから、強制競売目的たる不動産に設定された根抵当権の極度額が右不動産の最低競売価額を上廻るからといつて、競売不動産が差押債権者の債権に先立つ負担を弁済して剰余ある見込がないと断定しえないものであることはいうまでもないが、執行裁判所において、根抵当権者が現実に有する被担保債権の額を知りえない場合、いちおう右根抵当権の極度額をもつて差押債権者の債権に先立つ不動産上の負担と認め、右極度額が競売不動産の最低競売価額を上廻るときは、民事訴訟法第六五六条第一項により差押債権者に対し剰余のない旨を通知し、差押債権者から根抵当権者の現実の債権者の疎明が提出されたときは、これによつて取消の要否を判断し、右疎明資料の提出がないときは、前記債権極度額をもつて現実の債権額とみなし、同条第二項に基いて強制競売手続を取消すことは適法であつてなんら違法のかどはない。もつとも、差押債権者が前記の疎明をなすことは必らずしも容易ではないから、執行裁判所が右のような取扱をするときは、差押債権者としては、いきおい、前記六五六条第二項に従つて保証を立てて執行の続行を求めざるをえないこととなるが、さればといつて、執行裁判所において、すすんで差押債権者の便宜をはかり、根抵当権者に対して照会を発し計算書類の提出を促す等の積極的な調査方法を講ずべき義務はないと解すべきである。

そうすると、本件の場合、競売目的不動産上の根抵当の極度額が右不動産の最低競売価額を超過することは計数上明らかであるから、原裁判所が本件競売不動産の最低競売価額をもつては、右不動産上の負担および手続費用を弁済して剰余ある見込なしと認め、本件競売手続を取消し、抗告人の競売申立を却下する措置に出たことは正当であるといわねばならない。

したがつて抗告人の主張は採用するに由なく、原決定は正当であつて、本件抗告は理由がないからこれを棄却

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